判例における原価基準法(CP法)の解説

 原価基準法(これと同等の方法を含む。以下同じ。)は,国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を非関連者から購入するなどして取得した者(販売者)が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引に係る売上総利益の総原価に対する割合(当該販売者の売上総利益の額,すなわち,当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計額を控除した金額の当該原価の額の合計額に対する割合)を通常の利益率として(措置法施行令39条の12第7項。ただし,同項ただし書の規定により,比較対象取引と,当該国外関連取引とが売手の果たす機能その他において差異がないことを必要とする。),この売上総利益に係る利益率に基づいて算定された価格,すなわち,国外関連取引に係る棚卸資産の売手の取得原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に上記通常の利益率を乗じて計算した金額)を加算して計算した金額をもって独立企業間価格とする算定方法である。

 したがって,ある非関連者間取引をもって比較対象取引とするためには,① 当該非関連者間取引が,検証対象取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を非関連者から購入するなどして取得した者(販売者)が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引であり,② 当該非関連者間取引と,当該検証対象取引とが販売者(売手)の果たす機能その他において差異がないことが,その要件となるところ,原価基準法は,検証対象取引に係る通常の利益率が,当該取引に係る棚卸資産の種類そのものよりも,むしろ販売者(売手)の果たす機能(及び負担するリスク)と密接に関係することに着目し,主として販売者(売手)の果たす機能の類似性に基づいて独立企業間価格の算定をするものであるため, 原価基準法についても,独立価格比準法のように比較対象取引に係る棚卸資産と検証対象取引に係る棚卸資産との間の厳密な類似性(同種性)は必要とならず,単なる類似性で足りる (上記①) 一方で, 比較対象取引と検証対象取引とが販売者 (売手)の果たす機能,負担するリスクその他において差異がないことが必要となる(上記②)。そして,上記①の棚卸資産の類似性の有無は,比較対象取引に係る棚卸資産と検証対象取引に係る棚卸資産との間の性状, 構造,機能等の差異が比較対象取引と検証対象取引との間に販売者(売手)の通常の利益率の差異を生じさせる差異であるか否かによって判定すべきものであり,また,上記②の比較対象取引と検証対象取引とが販売者(売手)の果たす機能その他において差異がないか否かは,それぞれの販売者(売手)の果たす機能,負担するリスクのほか,それらが機能を果たしている市場の条件,特許権,商標権等の使用許諾,ノウハウの提供の有無等の諸般の事情を総合的に考慮して判定すべきものである。

 もっとも,比較対象取引と検証対象取引とが販売者(売手)の果たす機能その他において差異がある場合においても,その差異により生じる割合の差につき適切な調整(差異調整)を行うことができるときには,必要な差異調整を加えた後の割合をもって通常の利益率とすることができる(措置法施行令39条の12第7項ただし書)が,そのような差異調整を行うことができない場合には,当該比較対象取引の利益率に比準して独立企業間価格を算定することはできないこととなる。