役務提供取引を再販売取引と見做して課税を行った国側が敗訴した事例を紹介する(アドビ事件)。被控訴人(国)側は、サービスプロバイダーの役割を果たす控訴人(納税者)に対し、ディストリビューターの比較対象企業を用いて課税を行った事案である。

 「本件国外関連取引において控訴人が果たす機能と、本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能とを比較するに、上記認定事実のとおり、本件国外関連取引は、本件各業務委託契約に基づき、本件国外関連者に対する債務の履行として、卸売業者等に対して販売促進等のサービスを行うことを内容とするものであって、法的にも経済的実質においても役務提供取引と解することができるのに対し、本件比較対象取引は、本件比較対象法人が対象製品であるグラフィックソフトを仕入れてこれを販売するという再販売取引を中核とし、その販売促進のために顧客サポート等を行うものであって、控訴人と本件比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差異があることは明らかである。

 (略)

 本件国外関連取引において控訴人が果たす機能及び負担するリスクは、本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能及び負担するリスクと同一又は類似であるということは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。本件算定方法は、それぞれの取引の類型に応じ、本件国外関連取引の内容に適合し、かつ、基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法とはいえないものといわざるを得ない。そうすると、処分行政庁が本件取引に適用した独立企業間価格の算定方法は、租税特別措置法66条の4第2項第2号ロに規定する「再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法」に当たるということはできない。

 したがって、本件において、本件算定方法を用いて独立企業間価格を算定した過程には違法があり、結局、租税特別措置法66条の4第1項に規定する国外関連取引につき「当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たない」との要件を認めることはできないことになるから、上記独立企業間価格を用いてした本件各更正は違法であり、これを前提とする本件各賦課決定も違法である。」

 本件では、業務委託という私法上の法形式のもと、ディストリビューターとしての機能・リスクを負っているものとは認められず、法的にも経済的実質においても役務提供取引と解するものと判事された。